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2017年7月15日 (土)

(273)五嶋姉弟、母の思い

五嶋みどりさんが理事長を務めるNPO法人ミュージック・シェアリングの活動のひとつが、ICEP(international community engagement program)で、日本はじめアジア各国の恵まれない子どもたちに本物の音楽を届ける活動です。8回目として、昨年はネパールを訪問した報告会が、先月ありました。

 

今回のカルテット・メンバーは、みどりさんのほか、アルゼンチン、中国、イスラエルの演奏家で構成されていますが、彼ら(ビオラのルオさんは女性ですが)は若手のソロ・プレイヤーとしていくらでも仕事があるのに、わざわざみどりさんのオーディションを受け、ボランティアで参加している。彼らがいかにみどりさんの活動を敬慕し、参加したがっているか、そう考えるとICEPは、子どもたちに音楽を聴かせること以外に、彼ら若手にどんな演奏家になってほしいか、みどりさんの思いが秘められているのだと思います。

 

報告コンサートでは、ヒナステラ(アルゼンチンの作曲家。初めて名前を知った。不協和音もたっぷりだが、ラテン音楽らしい多彩な音の組み合わせ、リズムに圧倒された)、ドヴォルザーク、シューベルトの弦楽四重奏曲が披露されました。一級品のカルテットを小ホールで堪能する。何と贅沢なことか、来年もぜひ楽しみにしたい。

 

さて、みどりさんの異父弟、同じくヴァイオリニストの五嶋龍さん。

彼もみどりさんに負けずとも劣らない音楽家であること知りました。

 

“拉致被害者を忘れない”をテーマに、この秋全国6か所でチャリティコンサートを行うのです。その名も、Project R 。Rは、拉致被害者、RememberRyu を指す。

 

政府の拉致問題対策本部から、大阪でのコンサートについて連絡があり、協力を依頼されました。92日、大阪大学交響楽団との共演です。もちろんできることはなんでも、と答えたのですが、前売チケットは即日完売、前もって情報提供しておいた大阪ブルーリボンの会の会員でも買えない人が出る始末。ネームバリューの凄さをあらためて知りました。

 

龍さんがなぜこのプロジェクトを思い立ったか。この世で最も恐い母(五嶋節さん)が、僕の傍らで瞼を拭うのは、めぐみちゃんとお母様のことを想うときのみであった、と彼は書いています。母の姿を見て「拉致」についてできることはやろう、と心に決めていたといいます。

 

しかも、今回のプロジェクト6回のうち4回は各地の大学のオーケストラとの共演という形を思いついたのは、“if you see something, say something ”という、ニューヨークの地下鉄の広告にヒントを得たという。自分と同じ世代の若者と何かを成し遂げようという思いに。

 

しかし、「拉致啓発コンサート 大学尻込み」「『政治色強い』と共演辞退も」との見出しで昨日の産経新聞がこの間の事情を伝えています。龍さんが昨年末に共演を呼びかけたところ、約40校が関心を示し、2月の打ち合わせには18校が集まった。ところが、コンサートが拉致問題の啓発目的だと伝えると、ほとんどの学校が手を引いた、とある。残ったのは、

関西学院大、宮城教育大、(医療系大学生による)交響楽団はやぶさ、そして大阪大の4オーケストラ。これが日本の現実です。

 

しかし、4楽団が龍さんの思いに応えたことを称賛したいと考えます。また、逆説的ですが、もし40校が龍さんとの共演を求めてきて、調整に苦労するような日本の状況なら、実はとっくに拉致被害者は帰ってきており、龍さんがこうした企画を考えることもなかったといえるかもしれません。

 

五嶋みどり、龍という天才ヴァイオリニスト姉弟を育てたお母さんは、真の芸術は、聴く側のさまざまな思いを理解しなければ生まれないとお考えなのか、それは想像するしかありませんが、二人のお子さんは母の思いを体現されているのだと思います。横田早紀江さんの思いを、涙なくして聴けない人間を、今の日本が失いつつあるという現実をかみしめながら、「限りある身の、力試さん」と思ったことでした。

 

 

 

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