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2017年2月 9日 (木)

(253)「沈黙」と「不干斎ハビアン」

二月は逃げる・・・まったく。矢のように日が経っていく。

4日の立春は少し春めいた感じであったが、9日の今日は今冬初めての雪らしい雪が降り、10センチほど積もっている。

 

「沈黙-サイレンス-」についての評論家のコメントをいくつか。

 

「スコセッシは、遠藤周作が行間に込めたものを、日本人が母語で読むよりもはっきりとつかんでいる。信仰は棄教してもなお深まると遠藤は問いかけている」(若松英輔氏)

「絶対的な神の世界から、別のおぞましい世界に行ってしまった人間が、そういう世界を理解して生きようとする。そこにこの映画の現代性がある」(佐藤忠男氏)

「信仰を超越的なものではなく、答えの出ないものとしてとらえた」「転ぶ(棄教する)方が神の御心に沿う。土地に合わせ、自分なりの信仰を見つけよう。信仰は超越的なものではなく、状況の中でどう動くかだ――遠藤もスコセッシもそう考えている」(アーロン・ジェロー氏)

 

前回触れた「不干斎ハビアン」(釈徹宗著)。禅僧からキリシタンとなり、のちキリスト教をも棄てた宗教理論家の物語である。

 

まず仏教への批判書として「妙貞問答」を著した。妙秀と幽貞という二人の尼僧の問答で二つの宗教の違いをわかりやすく解説した。ポイントは、「仏教は(最終的に)無や空に帰着するので救いがない」「(仏教には神という)絶対者の概念がない。釈迦も諸仏も人間であり、造物主ではない」などと。「妙貞問答」はイエズス会のみならず、他の修道会でも布教のテキストと使われたという。

 

しかし、その後ハビアンは「妙貞問答」を自ら全否定し、「破提宇子(ハデウス)」というキリシタンの誤りをまとめた書を著した。「真に人間を救うのは人間にはなしえぬ。神でなければ」とキリシタンはいうが、「天地開闢からイエスの誕生まで5000年。その間、無数の人が(キリスト教を知らないため)死んで地獄に落ちるのを放っておいたのか。神は無慈悲である。」などと。

 

キリシタン教団への批判もおもしろい。

「キリシトの血肉として、パンを食べ、ぶどう酒を飲んでいる。信用できない」「南蛮人は日本人を人と思っていないから、日本人キリシタンはみなおもしろくない、と言っている」「デウスの人は無欲で慈悲深いといわれるが、本当は強欲である。」等々。宣教師たちを中から見た実感なのかもしれない。

 

しかし、またまたハビアンは、「京都において、修道女と駆け落ち同然に退会・棄教した」のである。信仰を守るということがいかに困難なことであったか、ハビアンはその見本のような、見方によっては実に人間臭い人物だった。

 

当然ながら遠藤周作はハビアンの信仰に疑問を呈している。遠藤は、すべてを同質化してしまう日本の宗教性とカトリックの信仰との狭間で苦悩し、その著書『沈黙』のなかで、「この国は沼地だ。この国は考えていたより、もっと恐ろしい沼地だった。どんな苗もその沼地に植えられれば、根が腐りはじめる。我々はこの沼地に基督教という苗を植えてしまった」と、(日本で棄教した)宣教師フェレイラに語らせている、と著者釈徹宗は記している。

 

「不干斎ハビアン」を読んでふたつのことが印象に残った。

 

ひとつは、布教のために日本に来た宣教師オルガンチノは、「日本人は、全世界でもっとも賢明な国民に属しており、彼らは喜んで理性に従うので、我ら一同に遙かに優っている。われらの主なるデウスが、何を人類に伝え給うたかを見たいものは、すべからく日本に来さえすればよい。私たちヨーロッパ人は、互いに賢明に見えるが、彼ら日本人と比較すると、はなはだ野蛮だと思う。私はほんとうのところ、毎日日本人から教えられることを白状する。私には、全世界でこれほどの天賦の才能をもつ国民はいないと思われる」と語ったこと。(もちろん一方で日本を軽蔑する宣教師もいたわけだが)

 

もうひとつは、山本七平がハビアンのことを「最初の日本教徒」と呼んだこと。「日本教」とは山本による日本人のエートス(行動様式)のことで、教義も儀礼も思想もないが、ハビアンこそ近代的日本人の第一号だという。これに共感した小室直樹氏も「あるべき姿そのままで生き抜く」日本教こそが最も高い宗教的価値を持ち、その自然の体系の中に救済も組み込まれている、という。

 

確かに、混とんとした世界情勢の中では、「沈黙する神」に依存することなく、「自然と一体となって自在に生きていく日本人」を取り戻すことこそ重要なことではないかと思う。

 

 

 

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