劇団夜想会主宰の野伏翔さん、特定失踪者問題調査会代表の荒木和博さんの講演は、なぜ拉致事件が引き起こされたか、なぜ解決しないのか、についての問題提起でした。
<野伏翔さん>
舞台劇「めぐみへの誓い~奪還~」の制作動機やプロセス、その間に勉強したことを話してくださった。
最初のバージョン「めぐみへの誓い」ができた2012年、周囲の抵抗が強かった。演劇や映画界は北朝鮮にシンパシーを感じる人が多い。どういう風にやれば本当の啓発になるか、を考えた。昔こんな誘拐事件がありました、ではなく、観る人に拉致被害者の家族や友人と同じような感覚になってもらうことが大切だと考えた。過去のことではなく現在進行形の誘拐事件であること、強制収容所など非人道的な部分も描かなければならないが、一部の家族から、うちの子も収容所に入れられ、もう殺されていると世間は思うのではないか、といった反対が出された。家族の集まりで劇の主旨を話したとき、「そういうこと(啓発としての劇)ができないから(拉致問題は)動かないんだ、ぜひやってもらいたい」と大声で応援してくれたのが有本のお父さん。そのつるの一声で動き出した。新しいバージョンの「奪還」では、被害者ごとの具体的な拉致の場面も描いた。
どうしてこんなに長い間解決しないのかを考えると、政治の背景に何人も北朝鮮や朝鮮総連シンパの有力議員がいたことが分かってきたと実名を挙げて話され、北朝鮮帰国事業についてや、北朝鮮が日本からカネを巻き上げる実態も具体的に話された。救出段階では首相の英断で超法規措置がとれるかどうかにかかっている。そのための世論形成が必要で、頑張っていきたい、と力強く締めくくられた。
<荒木和博さん>
「めぐみさん拉致の真実」と題して、日本の闇の深さを語ってくださった。安倍さんがいくら頑張っても解決しない、そういう問題だと明言された。
めぐみさん拉致について、40年前拉致されたとき、すでに北朝鮮の拉致であることを、警察の上層部はもちろん、政府ももちろんトップの首相も知っていた。なぜか。普通の誘拐事件なら極秘捜査するはずだが、姿を消した翌日には機動隊が700人も出て大規模な捜索をしていた。さらに当時の新潟中央署の松本署長(故人)が9年前、横田さんに、当時北朝鮮の仕業だとわかっていたが、救出できなかったことを詫び、私が生きているうちに伝えたかったと語っている。
警察は、事前に電波情報で北朝鮮が何かしようとしていることはわかっていて警戒はしていた。だからめぐみさんの捜索願がでたとき、北朝鮮の拉致だと直感したはずだ。そこでせめて船に乗せられ、日本の領土から運び出すのを阻止すべく必死に動いたはずだが失敗したため、これは表に出せないと判断し、箝口令が敷かれた。警察でも末端の人は知らなかっただろう。公安畑の知識のある人だけが知っていたと推測される。おそらくこのことは首相官邸も知っていた。しかし中学生が北朝鮮に連れていかれたことが表沙汰になったらどうするか、日本は北朝鮮との国交はない、戦争はしないことになっている、だから助けられない。見殺しにするしかなかった。これがこの国の現状です。
めぐみさん拉致の2か月前起こったダッカのハイジャック事件のとき、福田首相は犯人の要求に屈して、超法規的措置により、16億円の身代金を支払い、収監していた犯人の仲間たちを釈放した。「人間の命は地球より重い」というなら、いかなることをやってでもめぐみさんを救出しなければならなかったはず。しかししなかった。この国は戦後、戦争を放棄したと言って自慢してきた。いくら戦争を放棄したって、戦争は日本を放棄しない。実際は戦争を放棄したのではなく、在日米軍にやらせていただけ。アメリカも自分の都合のいいときは戦争をやるけれども、そうでないときにはやらない。拉致についてもそうで、めぐみさんはその間の隙間というか、穴に落ちたのだということだろう。
次に1995年(平成7年)頃、新潟県警の警備部のあるスタッフが、上司から横田めぐみ失踪について調べるように言われた。しかも他の者には知られないよう、お前だけでやれ、と言われた。言われた方はなぜこんな指示が出たかわからなかった。この時期は、韓国の情報部から、中学生が70年代の後半、バドミントンの練習の帰りに拉致されたという情報がもたらされたときです。石高健次さんが警察にそれを伝えたが、過去のことで資料も残ってないと言われた。これは間違いなく警察のウソである。このことは横田さんのご家族にも、ましてや一般国民には知らされなかった。これが2回目の隠ぺいです。
3回目は1997年(平成9年)の2月3日、めぐみさんについて西村真悟議員が橋本龍太郎総理大臣に国会で質問した。総理は何とかしなければと本気で思って、密使として民族派の幹部本多一夫氏をピョンヤンに送った。そのとき、本多氏は北の案内人から「横田めぐみは、あのアパートに住んでいる」と言われた。「フラッシュ」という週刊誌にも出ている。5年後、小泉訪朝のとき、1993年に横田めぐみさんは死んでいるといわれたときに、なぜ日本政府代表団は、それは違うと言わなかったのか。象徴的なめぐみさん拉致についても3回も隠ぺいしている。
これは一人、二人の政治家が悪いというようなことではない。私が解決すると言っている安倍さんでもこのことは言えない。自民党政権のみならず、細川政権でも民主党政権でも何ら変わらなかった。それだけ根深い問題であるということです。政府が認めている拉致事件は、未遂も含めて14件、21人です。警察が認定した高姉弟も入っているが、これらの事件についても警察は家族に捜査状況、結果について事実上一切何も知らせていない。有本さんはヨーロッパからの拉致ですが、警察はものすごい捜査をしていますが、表に出そうとしない。これがこの国の実情です。
もし、北朝鮮に助けに行ったとして、被害者に会えた場合、被害者は安心して「良かった!」と言う人はほとんどいないだろう。助けに来たと言っているこの人たちは本物だろうか?自分を試しているのかもしれない、「帰りたい」と言ったとたんに殺されるかもしれない。収容所に送られてしまうかもしれない。おそらくそう考える。帰国された蓮池さんたちも、自分たちがどこでどういうふうに拉致されたか今も正確には話していません。今の北朝鮮の体制が崩壊しない限り恐怖から逃れられないということです・・・。
今回の「めぐみさんのことを語ろう」と呼びかけた集会は、ゲスト、講師の真摯な思いが披歴されたことにより、筆者が当初考えたより、はるかに濃厚な内容となりました。参加された方々が、拉致の真実を広めるために動いていただくことを期待したいと思います。
10月も終わろうとしている今、日本では安倍長期政権を作るための選挙が行われています。野党勢力が分裂し、自公連立政権の大勝利と予想されていますが、もしそうなったとしても、11月5日、安倍さんとトランプさんがガッチリ握手をしても、手放しでは喜べないと思います。日本人が本気になって拉致被害者を救出するという覚悟をしない限り。